屋外歩行にこだわり抜くデイサービスが、電動アシスト歩行器「RT.3」を導入した理由
桜並木と緑に囲まれたカイフクデイサービス
長野県塩尻市。桜並木と公園に囲まれた一角に、カフェのような空間のデイサービスがあります。カイフクデイサービスです。稼働率は常に95%を超え、利用を希望する方が後を絶ちません。
ここでは、雨の日でも傘をさして外を歩きます。毎週、スタッフ全員で「歩き方」だけを見るカンファレンスを開きます。「歩けるようになること」に、徹底して向き合う現場です。
その現場が、電動アシスト歩行器「RT.3」を歩行訓練に取り入れています。独自のリハビリ理論を確立してきた事業者が、なぜRT.3を導入したのか。代表の吉村敏康氏と、理学療法士で管理者の関正典氏に伺いました。
「カイフク」という名前には二つの意味があります。一つは、心身の機能を取り戻すリカバリーとしての「回復」。もう一つは、介護の力で皆さんに「幸福」をもたらしたいという願いです。その二つを重ねて、ひらがなの「カイフク」としました。
ロゴの「K」は、縦の線が少し斜めになっています。一度倒れかかった木から、もう一度芽が出る姿を表したものです。病気やけがで一度弱っても、適切な支援があれば、また力を取り戻せる。その考えをロゴにも込めています。
一度倒れかかった木から、もう一度芽を出す。
「回復」と「幸福」の二つの意味を込めたカイフクデイサービスのロゴ。
以前、私は介護老人保健施設で働いていました。多くの方が車いすに座り、外出するときも車いすという光景が当たり前でした。在宅復帰を目指す施設でありながら、なぜ歩けなくなり、家に帰れなくなってしまうのか。次第に、そのことを強く考えるようになりました。
そこで、働きながら大学院に通い、人の体を生理学から学び直しました。博士号を取得し、研究を続ける中で、重度化してから支えるだけではなく、その一歩手前で、自分が得た理論や技術を生かしたいと考えるようになりました。それが、カイフクデイサービスの出発点です。
施設の成り立ちと理念について説明する吉村敏康氏
大学院時代、恩師から「要介護高齢者には4つの共通の願いがある」と教わりました。「元気になりたい」「行きたいところに行けるようになりたい」「自分のことは自分でできるようになりたい」「家族の世話にはなりたくない」。体が弱くなったとき、誰もが抱く当たり前の願いです。私たちは、この4つを実現することを事業の中心に置いています。
基本理念には「改善」と「予防」を掲げ、「維持」や「悪化防止」という言葉は入れていません。介護が必要な状態になれば改善し、必要になりそうであれば予防する。名前の通り、回復させるサービスでありたいと考えています。
歩行は、生活の自立に直結します。トイレや入浴の動作ができても、そこまで移動できなければ自立にはつながりません。ADLには必ず「移動」が伴うため、歩けることが生活の土台になります。
私の研究では、要支援1から要介護1の方の約半数が、デイサービス以外では家から一歩も出ていませんでした。だから、私たちは屋外歩行を行い、歩行量をしっかり確保します。小雨なら傘をさして歩きます。涼しい時期には2キロ歩く方もいます。もちろん全員がいきなり2キロではなく、最初は100m、200mから。そこから伸ばしていく。その「量」が大事なんです。
軽い負荷で、普段使っていない筋肉を再び活動させ、姿勢や動作を整えます。一般的な筋力トレーニングとは異なり、しんどさを我慢する運動ではなく、気持ちよく体を動かすことを大切にしています。マシンで補いにくい、ひねりや指先の動作は、4名から5名ほどのグループで行う個別機能訓練で補っています。
軽い負荷で体の動きを整えるパワーリハビリテーション設備
利用者の中心は昭和生まれの方になり、清潔感があり、きれいで、少しおしゃれな場所を好む方が増えています。そこで、カフェのような空間で、おいしいコーヒーを楽しめる施設にしました。
利用者さんが「私はまだデイサービスは早いわ」と言いながら通ってくださることもあります(笑)。私たちは、あえて名称に「デイサービス」を付けています。介護のデイサービスであることから逃げるのではなく、その中身で従来のイメージを変えたいからです。
介護用の椅子を並べたり、塗り絵や計算問題をしたり、地上波のテレビを流したりするのではなく、身体機能に向き合い、きちんと機能訓練とリハビリを行う。その姿勢を大切にしています。
カフェのような明るさと清潔感を大切にしたデイルーム
一番最初のきっかけは、シンプルに坂道です。うちには坂道を含む歩行コースがあります。どんどん歩ける方がいる一方で、その坂がどうしても難しい方もいる。アシストがあれば、上り下りを支え、歩ける場面をもっと増やせるのではないかと考えました。
実際に借りて使い始めた当初は、坂道を中心に考えていました。しかし、さまざまな方に使っていただく中で、アシストと制御によって、これまで難しかった場面でも歩行を続けられる可能性が見えてきました。「歩ける場面を増やす道具」として導入したことが出発点です。
施設周辺の坂道で行うRT.3を使った屋外歩行訓練
屋外歩行訓練を中心に使っています。私が最初に驚いたのは、アシストや制御だけでなく、歩行距離を測り、音声で教えてくれることでした。それまではロードメジャーでコースを測っていたので、歩いたその場で距離が分かることに大きな価値を感じました。
現場で距離が見えると、「前回は100メートルだったのに、今回は200メートル歩けたね」とその場で利用者さんに伝えられる。これが自信につながりますし、歩く量をつくるという私たちの狙いにも合っていました。現在は、なるかみで2台、塩尻で2台の合計4台を使用しています。RT.3を使用する人数は、半日デイの1拠点あたり半日で2名から3名、1日では約6名、2拠点合計では1日約12名というイメージです。
現場でのRT.3の使い方について説明する関正典氏
施設周辺には坂道や、舗装されていてもわずかに傾いた路面があります。上り坂ではアシストが働き、下り坂では制御が働くので、歩行器そのものの重さを感じにくく、不安を減らしながら歩くことができます。ちょっと健常者にはバリアと感じにくい横に流れてしまう傾斜でも、使った利用者さんから「効いてる、効いてる!」という声が出ることもあります。
歩いた距離が分かることで、利用者さん自身が変化を実感できます。施設で使ったことをきっかけに、ご自宅でも使いたいとレンタルにつながった方もいます。「昨日はこれだけ歩いてきたよ」「次はあの坂を下りたい」と話してくださる。歩けた経験が、次の行動を生み出していくところに手応えを感じています。
歩きを良くするには、歩く量が重要です。何も使わずに短い距離しか歩けないのであれば、歩行器を使ってでも多く歩けた経験を繰り返し、最終的に杖や独歩へと移行していく。RT.3は、歩行そのものを代わりに行うものではなく、歩ける距離や場面を増やし、次の段階につなげるための道具だと考えています。
※写真はカイフクデイサービス提供および取材時撮影素材を使用しています。